
「marble machine wall3」の進化を読み解く
ナンバー「3」の秘密と進化

「marble machine wall3」として進化
三つの時間軸と現代アートとしての可能性へ
(作家/作品/社会)
mmwは作者がアトリエを立ち上げる時に代表作として作りあげたものである。最初の状態は一般的なお客さんもイメージしやすいようなピタゴラや木を意識をした部分があり、仕掛け重視の製作だった。mmw2はそこに更に物語性を追加し、よりキャッチーな印象を持たせるために全体的にカラフルな街並みで華やかな印象にブラッシュアップしている。そして、mmw3は今まで抽象的だった作品の物語性を具体的な設定と背景を付け加え、ボリューム感もおよそ2倍に拡張し、更にはクラウドファンディング支援者自身が「ヒトヒト」というキャラクターを街の中に設置出来るという企画を行った。
こうした一連の流れでこの作品には3つの時間軸が出来た。1つ目は作家自身がこの作品に掛けてきた時間軸。2つ目は作品の中でも物語の進行による時間軸。3つ目は作家以外の他者が作品に参加することで社会と繋がり、作品に存在するキャラクター(ヒトヒト)は社会で実在する人物として存在する時間軸が生まれる。この3つの時間軸が揃ったことで多層的な視点で鑑賞者は作品を楽しむ事が出来るようになる。
①作家と作品の成長の記録
mmw1からmmw3への変遷は、作家の創造性の進化と成長の記録となっている。初期の作品から、物語性・社会とのつながりを重視するようになった過程は、現代アートに通じる。
②物語と現実の融合
作品内の物語の時間軸と現実社会の時間軸が交差することで、作品世界が現実と深く結びつく。クラウドファンディング支援者が「ヒトヒト」として作品に参加することで、作品は単なる鑑賞対象から参加型のアートへと進化。これにより作品は鑑賞者にとってより身近な存在となり、作品世界への没入感を深める。
③社会とのインタラクティブな関係
「ヒトヒト」の存在は、作品と社会との間に触れ合いを生み出し、作品は社会の出来事や人々の想いを反映し、変化し続ける生きたアートとなる。作品を通じて鑑賞者は社会とのつながりを再認識し、自らの存在意義について考えるキッカケとなる。
④多様な解釈と多層的体験
「mmw」シリーズにおける三つの時間軸の交錯は、鑑賞者へ多種多様な解釈と体験の機会を生む。鑑賞者は、作家が作品に込めた意図、物語が展開する時間軸、そして社会との関連性という複数の視点から作品を深く考察が可能となった。これらの視点の重なりは鑑賞者一人ひとりが作品に対して独自の解釈で鑑賞し、作品は鑑賞者の数だけ異なる意味を持つようになる。この多層的な解釈の可能性が、鑑賞者に奥深い体験をもたらし、作品の魅力を一層引き立てる。
⑤アートの新たな可能性の探求
この作品はアートと社会との新しい関係性を探求する実験的な試みの作品になりつつある。アートが単なる美的対象ではなく、社会と深く関わり、人々に影響を与える力を持つことを示唆する。この作品は「遊びと現代アート」を織り交ぜた表現の可能性を広げる作品に進化した。
ビー玉転がし・木材・複雑な物語が融合した
スチームパンクの世界へ
今作から物語の具体的設定がより色濃くなった。mmw2までの世界観設定には抽象的な要素を多く含んでいる部分があったが、mmw3から世界の設定をもう一度ブラッシュアップし、世界観の設定だけではなく、それぞれのキャラクターが存在する背景、現代社会の社会問題を彷彿させるような場面の追加など、より多く考えさせられる点が増えたと言える。そして、木材を使用したアナログな本作品の物語の中では「高度な文明」という表現で街が更にハイテクノロジー化が進んでいる。こうした表現を分かりやすく伝える為に、スチームパンクとビー玉を掛け合わせた造形表現を生みだした。また、子ども達が前作以上に遊びやすいようにビー玉を直接手で入れる箇所を増やし、コースは長くなり、壊れにくい簡単なギミックも追加している。


ファンタジーの世界を没入感のあるジオラマへ
物語を紡ぐ情景表現
今作で特に力を入れたのは細かいジオラマ表現である。mmw3の製作に辺り、新たな街で過ごすキャラクターたちの日常をリアリティを持った没入感として魅せる為には、ジオラマとしての要素が必要不可だった。前作までは「ビー玉で遊べる街」といった印象だったはずだが、今作は「作り込まれた物語がある街の中にビー玉が転がる」といったように物語>ビー玉へと印象をダイナミックに進化させている。
国内にも数多くジオラマ表現の施設はあるが、基本的にジオラマは作り込まれたものを鑑賞し、そして、ジオラマ表現の多くは鉄道や街並みなどが多い。創作ファンタジーをジオラマ化し、且つしっかりとした物語を付け加え、ビー玉遊びとしても成立させるという作品事例はおそらく国内でもほとんどないのではないかと思われる。そして、やはり面白いのはこの作品が日に日に新たなキャラクターが増えていくことで、ジオラマの新たなストーリーが始まっていくことである。作品を目の当たりにした時は、様々な視点から覗いてみてほしい。言葉では語りれない表現も多いのだ。